漢方の世界は魔物が住んでいる

 開業してから、漢方薬の処方する機会が増えました。

 私の心の師匠は、大阪の千福先生と東京の新見先生です。

 千福先生の講演を2回聞いてすっかりファンになりました。

 新見先生の書籍はほとんど全部持っています。読んでいくと面白くて、これまで処方したこともないような漢方薬も出すようになりました。

 そこで、もっと勉強しようと、この5日に大阪であった、日本東洋医学会関西支部例会に行ってきました。

 ところが、です。

 

 私のような普通の臨床医ではなく、コテコテの漢方医のマニア集団でした。漢方薬の構成生薬を諳んじ、立て板に水のように、講釈師のように話が進んでいきます。

 単語はわかるが、全体像はぼやけて遠い…。まるで私の英語でネイティブと会話をしているような寂しさと空しさで一杯になりました。うーん、奥が深いのか、こいつらがおかしいのか…。

 あまりのつらさに、途中で退席してきました。

 特にランチョンセミナーはマニア色炸裂で、ツムラの漢方エキスしか知らない私には、明治以降の”偉人”たちのオリジナル漢方の名前にクラクラしてしまいました。

 私はマニアではないし、マニアにもなりたくないので、こういう学会への参加はしばらく遠慮して、新見先生の教科書を熟読して、実力をつけたいと思いました。

 

 

 でも漢方薬を知っているといいですよ。

 

 例えば、「胃が痛むんです。」という患者さんが来ると、まず内視鏡やエコーをします。これで何も異常がなかったとき、おそらく多くの医師は、「大丈夫、大丈夫。病気はなにもないよ。経過をみるうちに治りますよ。」とか、「胃潰瘍はないけど、胃が少しただれているようだから、胃薬だしますよ。」なんて、適当なことを言って帰します。でも、そんなもので胃の痛みが治るでしょうか。

 

 漢方薬を少し知っていると、胃腸を整える漢方処方がたくさんあるのがわかります。胃カメラもエコーもCTも何もない、そんな時代にも胃が痛む人々はたくさんいたはずです。何千年たっていても、人間の構造が変わるわけでなし、そういう知恵を使って患者さんの悩みや訴えが少しでもよくなればいいですね。

 

 

 開業して、漢方薬の応用範囲の広さに驚いています。全部が効いたわけではありませんが、こちらの予想を超えて、よく効いた患者さんはこのわずか2年でたくさん経験しました。

 

 何事も私の勉強次第。50を越えたおじさんですが、まだまだ勉強して、マニアではないが、初心者でもない、患者さんの役にたつ、漢方のパワーユーザーになりたいと思います。

 

 よく効くと、もちろん患者さんは喜びますが、実は、一番喜んでいるのは、漢方を処方した私なのです。勉強すれば勉強するほどに楽しい経験ができます。